専門家を立てたのに、開発が進まない|監修者と発注者の線の引き方
専門家に入ってもらったのに、開発が前に進まない。この相談は珍しくありません。結論から言うと、①止まる原因は専門家でも発注者でもなく、決定権の線が引かれていないことにあります。②専門家に原価の責任まで負わせると、その人を呼んだ意味が薄まります。③線は、揉めてからでは引き直しにくい。最初の打ち合わせで紙にしておく必要があります。
よくある止まり方
発注者が自分で専門家を選び、専門家が理想の設計を出す。原価が合わない。専門家はこだわりを譲らない。発注者は専門家の顔を立てたい。結果、誰も決められないまま試作だけが増えていく——という流れです。
ここで起きているのは意見の対立ではありません。決定権の空白です。誰が決めてよいのかが決まっていないので、正しさの議論が終わらなくなります。
専門家に「原価も考えてください」と言ってはいけない
専門家の価値は、妥協しないところにあります。妥協を求めた瞬間に、その人に依頼した理由が消えます。
原価と専門性を突き合わせて着地させるのは、ディレクションの仕事です。専門家の仕事ではありません。専門家が予算調整まで抱えている案件は、たいてい専門家も不本意で、発注者も納得していない状態で進みます。板挟みに置かない設計にすることが、専門家に力を発揮してもらう前提条件です。
最初に引く3本の線
- 専門家が決める:安全性、表示の可否、根拠と表現の整合。ここは発注者が望んでも動かさない
- 発注者が決める:価格、ターゲット、世界観、発売時期
- 合議で決める:味・使用感・容器。好みが入る領域なので、評価の観点と順位を先に決めておく
この線引きがあると、意見が割れたときに「どちらが正しいか」ではなく「これは誰が決める範囲か」の話にできます。議論の性質が変わり、その場で決着がつくようになります。
専門家を紹介する側から見ても、これが安全
専門家を紹介する立場の人が最も避けたいのは、紹介先でその専門家が矢面に立たされることです。予算の板挟みで消耗させてしまえば、次から紹介できなくなります。
決定範囲が引かれていれば、専門家は専門性の話だけをしていればよく、価格の責任を負わずに済みます。BELTHYが専門家をアサインするとき、報酬条件より先に決定範囲を確認するのはこのためです。
まとめ
専門家を入れた開発が止まるのは、人選の失敗ではなく設計の不在です。安全性・表示は専門家、価格・ターゲット・時期は発注者、味と使用感は合議。この3本の線を最初の打ち合わせで紙にしておけば、揉めても止まりません。
よくある質問
Q. すでに専門家に入ってもらっていて、揉めています。今からでも線は引けますか。
A. 引けます。ただし「どちらが正しいか」の議論を一度止めて、決定範囲の確認から入り直す必要があります。当事者同士だと難しいので、第三者が間に入るほうが早いことが多いです。
Q. 専門家は自社で探すべきですか、任せたほうがいいですか。
A. どちらでも構いません。重要なのは誰が探したかではなく、その人の決定範囲が決まっているかどうかです。
著者プロフィール
松尾和美(まつお・かずみ)/食品ブランドプロデューサー・管理栄養士。株式会社BELTHY代表。市場調査・コンセプト設計から処方・成分設計、OEM工場のディレクション、パッケージ、発売後90日の育成までを一気通貫で手がける。手がけた商品に、海外7カ国で展開し累計100万食を突破した焼き芋菓子「AMAGURA」、発売初年度に10万袋・Amazonランキング1位を獲得した「NEOわらびもち」(商品開発・ディレクション・PRを担当)など。
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